本コラムは、「フランチャイズ・ビジネス」の本質を深く理解し、応用していくために、弊研究所が研究してきたフランチャイズの歴史をお伝えするものです。前回までは、「アメリカ」「欧州」、そして「日本」の「フランチャイズ・ビジネス」の「発展史」のあらましを説明しましたが、今回からは「アメリカにおける発展の歴史」について更に詳細にご説明しましょう。

※第6回は過去掲載記事の再編集版となります。

<アメリカにおける発展の歴史>

1.19世紀のアメリカ

(1)フランチャイズ・ビジネスの第1号

アメリカにおける「フランチャイズ・ビジネス」の第1号といわれる「シンガーミシン」は、1863年に誕生したといわれています。1863年といえば、南北戦争の真最中であり、1776年7月4日に建国されたアメリカは、建国から87年目を迎えていました。19世紀後半、それまで完全な農業国だったアメリカは、工業化と都市化にまい進しだした北部と、近代的な農業化への道を歩み出した南部および中西部に大きく社会が2分されるようになり、これが南北戦争の原因になったといわれています。小売業にしろフードサービス業にしろ、いわゆる流通業はどの国においても、その国における社会的経済的環境の変化の影響を受けています。また、その土地の風土や文化を端的に表現をするものでもありますが、特にアメリカは歴史が浅い国であるため、それが際立っています。

(2)デパートメントストアの誕生

当時、アメリカの小売業の歴史に本格的に登場したのが、デパートメントストアです。世界最初のデパートメントストアは、アメリカではなくフランスで誕生しました。1852年にアリステイド・ブーシー(Aristide Boucicaud)がパリで創業した「ボン・マルシェ(Bon Marche)」がそれです。

これに倣ってアメリカにおいてデパートメントストアの第1号店を開店したのは、そのわずか6年後の1858年、ニューヨークの6番街の「メーシー(Macy’s)」です。その後、1861年にフィラデルフィアに「ジョン・ワナメーカー(John Wanamaker)」が、1865年にはシカゴに「マーシャル・フィールド(Marshall Field)」というように、各地に続々と誕生しました。

近代都市とデパートメントストアは、ゆりかごの中の双生児ということができます。デパートメントストアは、大都市への人口集中によって新たに創出された需要の増大に対応して生まれた当時最先端の業態です。豊富な品揃えとお客様が自由に商品を選択できるという、ショッピングの楽しさを提供したことがお客様の心をくすぐり、その後大都市のシンボル的存在として成長していきます。これらデパートメントストアの誕生は、南北戦争以前ですが、工業化され大都市に人口が集中した北部を象徴しているといえます。

(3)食料品店のチェーン化

1859年にお茶の安売りから出発した「グレート・アメリカン・ティ(Great American Tea)」は、その10年後にあたる1869年に「グレート・アトランティック・アンド・パシフィック・ティ(Great Atlanntic & Pacific Tea)」と社名を改めて食料品店のチェーン化を始め、チェーン・ストア時代の基礎を築きました。これが元祖スーパーマーケット・チェーン「A&P」に発展したのです。※残念ながらA&Pは2015年に破産し、その長い歴史に終止符を打ちました。この報道は、全米に衝撃を与えました。

(4)大陸横断鉄道の開通

南北戦争も終わり、1869年には最初の大陸横断鉄道が完成し、誰もが手軽に長距離旅行や出張が可能な社会が現実になりました。さらに、カリフォルニア州の安価で良質な農産物を貨物列車で東部の市場に運ぶことが可能になる、というように流通手段の改革がなされました。また、鉄道の発展は、アメリカの広大な国土の隅々に人々を移住させ、たんなる農村にすぎなかった場所を大都会へと変貌させました。また、郵便馬車は鉄道の郵便車にとって代わられ、郵便事業の高度化が進み、誰もが利用できる遠隔地との通信手段として社会に浸透して行きました。

(5)メール・オーダーハウス

19世紀から20世紀にかけ、大都市の消費者を相手にデパートメントストアが大発展しましたが、農村の人々は到底その恩恵に預かることはできませんでした。そんな中、デパートメントストアとは全く異なる新たなビジネスが同時期に世に出ました。1872年に創業した「モンゴメリー・ワード(Montgomery Ward)」と1886年に創業した「シアーズ・ローバック(Sears Roeback)」がそれです。この両社共に、後にゼネラル・マーチヤンダイズ・ストア(General MerchandiseStore:GMSと略す)として発展しましたが、創業時のビジネス・モデルは、鉄道とともに急速に発展した郵便を最大限に活用した事業=メイル・オーダー・ハウス(Mail OrderHouse)、つまりカタログによる通信販売です。奇しくも両社の本社はシカゴでした。交通の要衝であり商品取引の中心地として発達した地の利を生かし、鉄道と郵便の発達と共に、大都市の商業機能でカバー出来ない農村地域の方々に最新の商品を通信販売で届け始めたのです。

(6)バラエテイ・ストア

1800年代の小売業において、全く新しい優れた着想で生み出されたチェーンが、1879年に創業の「F.W.ウールワース(F.W. Woolworth)」です。「ウールワース」は、非食品の分野で5~10セントの安価で良質な商品を多彩に品揃えしたバラエテイ・ストアの草分けとなりました。

(7)19世紀アメリカのフードサービス

1800年代のフードサービスにおいては、まだチェーンの兆しはまったく見られません。アメリカで初めてレストランと名づけられて食事をサービスする商売が出現したのは、1830年代に入ってからです。アメリカのフードサービスの歴史は「デルモニコ(Delmonico)」から始まったといわています。「デルモニコ」以前にも、アメリカにレストランらしきものがなかった訳ではないですが、名実ともに「レストラン」と認められているのは、この「デルモニコ」が第1号といわれています。

1870年代に入り、鉄道や船の旅行が発達するとともに、船中の食堂や食堂車を生み出し、豪華な食事が非常に評判になりました。また、同時に鉄道や船の旅行の発達はホテルの発達を生み、ホテル内のレストランも普及していきました。こうしたところから、アメリカにおけるフードサービスが徐々に勃興していきましたが、近代化、チェーン化を果たすのは20世紀に入ってしばらくしてからのことです。

to be continued